キャピタル アセットマネジメント株式会社

中東紛争に対するベトナムの対応

情報提供資料

2026年3月16日

 3月9日、ベトナムのチン首相はアラブ首長国連邦大統領、クウェート首相、カタール首相と電話会談を行い、国際協力の促進について協議した。ベトナムはエネルギー安定確保に向けて支援、あるいは緊密な協力体制の構築について、各国から合意を取り付けた。ベトナム政府は、金融政策と財政政策の緊密な連携を通じて、中東情勢への対応として包括的かつ柔軟な解決策を講じている。政府によるタイムリーな施策と企業の柔軟な対応は、直面する逆風を克服し、貿易と成長のモメンタムを維持する鍵になると期待される。
 ■ ベトナムは直近4年間、原油・ガソリン・液化石油ガス・石炭などの燃料商品の輸入に年間250億米ドル前後を費やしている。直近3年間の燃料別構成比は、原油31%、石油製品32%、液化石油ガス8%、石炭29%となっている。主な輸入先は、原油がクウェートとナイジェリア、ガソリンがシンガポール・韓国・マレーシア、液化石油ガスがマレーシア・中国・カタール・マレーシア、石炭がオーストラリアとインドネシアなどである。イランやイスラエルは含まれていない。

 ■ 市場は物流ショックにある程度の適応力を備えつつある。従来、情勢不安の際には顧客側が一時的に注文を保留する傾向があったが、現在は生産量や納期を調整することで注文を維持している模様である。商工省輸出入局は企業に対し、以下の内容を推奨している。①供給源の多様化と類似した代替市場の開拓。②売買契約の締結においては、物流・輸送・配送・保険に関する契約内容に細心の注意を払うこと。

 ■ ベトナム政府と関係当局、企業は状況を注視し、エネルギー安全保障の確保、生産活動と日常生活のために十分なエネルギーの供給、価格の効果的な管理、輸出入・物流・輸送を円滑化するための解決策を実施していく構えである。
中東紛争に対するベトナムの対応

(出所)ベトム税関局データに基づきCPVN作成

 中東紛争の激化は輸送コストの急騰と世界のサプライチェーンの混乱を引き起こし、ベトナムを含む世界経済に広範な影響を及ぼすことが懸念されている。すなわち、マクロ経済(特にインフレと経済成長)、エネルギー安全保障、ロジスティクス活動や輸出入活動、ベトナム人海外居住者の活動、そして外交関係などへの影響が想定される。ベトナム政府、関係当局・省庁、そして企業は市場動向を綿密にモニターし、影響を最小限に抑えるための生産・輸送計画を積極的に調整せざるを得ない状況になっている。国家管理の観点から、ベトナム商工省輸出入局は業界団体に対し、中東紛争が輸出入活動に与える影響を検証・評価し、企業の負担を軽減するための解決策を要請した。具体的には、政府はエネルギー安全保障の確保・生産・事業・日常生活に十分なエネルギーを供給すること、そして国民に悪影響を及ぼす買い占め、価格つり上げ、市場操作の防止に向けた市場管理(密輸対策の検討と実施を含む)を産業界に求めている。

1. ベトナムの原油・ガソリン・液化石油ガス・石炭の輸入現状

 ベトナムは近年原油・ガソリン・液化石油ガス・石炭を含む燃料を、年間250億米ドル前後輸入し、過去10年間で約3.6倍(米ドル換算)増加した。輸入量は年平均約9,000万トン超と推定されている。2025年の実績では、燃料の輸入額(約233億米ドル)がベトナムの商品輸入全体の約5.1%、同年の名目GDPの約4.5%であった。このうち、原油の輸入額(約77億米ドル)は名目GDPの約1.5%相当。以下は燃料別の輸入推移である。


ベトナムにおけるエネルギー(燃料)輸入の推移

中東紛争に対するベトナムの対応

(出所)ベトム税関局データに基づきCPVN作成

 直近3年間の燃料別輸入額構成比は、原油31%、石油製品32%、液化石油ガス8%、石炭29%となっている。主な輸入先は、原油がクウェート・ナイジェリア、ガソリンなどの石油製品がシンガポール・韓国・マレーシア、液化石油ガスがマレーシア・中国・カタール・マレーシア、石炭がオーストラリア、インドネシア、ロシアである。イランやイスラエルは含まれていない。

中東紛争に対するベトナムの対応

注:ベトナム中部ではニソン精製所が稼働開始した2018年以降、原油の輸入が急増している。

中東紛争に対するベトナムの対応

(出所)ベトム税関局データに基づきCPVN作成

中東紛争に対するベトナムの対応

(出所)ベトム税関局データに基づきCPVN作成

2. 政府と関係当局、企業の対応方針と対策

 中東紛争の激化を受けて、チン首相は3月4日、10%以上の経済成長、マクロ経済の安定とインフレ抑制、そして経済の主要な均衡確保という目標達成に全力で取り組む姿勢を強調した。さらに、3月5日に対策会議を招集し、以下の緊急措置を指示した。①財務省に対し、短期および長期の様々なケースに適した社会経済運営シナリオを策定し、供給源やサプライチェーンの多様化をもたらす特恵輸入税率の改正決議の提出、②商工省に対し、原油価格変動に対処するエネルギー安全保障のための運営シナリオを策定し、ガソリンと軽油の価格を安定させるための対策を要請した。

 商工省輸出入局は、中東紛争の影響を評価する要請書を発行した。同文書の趣旨は、各業界団体に対して中東紛争が各産業の輸出入状況に及ぼす影響を検証・評価し、想定する困難や障害を特定することで輸出を促進するために代替エネルギーを模索するなどの施策案を要請した。各団体から収集した情報のもとに、管理機関は、企業と輸出産業を支援するための適切な計画と施策を迅速に測定・実施することになる。

 ベトナム物流企業協会も、中東紛争が物流企業に及ぼす影響について調査し、中東情勢を鑑みて、いくつかの重要な問題に焦点を当てている。そのうえで、企業が実施している対策(輸送ルートの調整、輸送手段の変更、緊急時対応計画の策定、物流のリスク管理の強化など)も情報収集している。

 これらの調査結果は政府・関係当局への提言をまとめるための土台となり、国際サプライチェーンの変動への対応において企業コミュニティをタイムリーに支援することを目指している。

 企業側も速やかに対応している。石油・ガス部門を統括するペトロベトナム(PVN)とペトロベトナム・ガス(PVGas)は以下の対策案を提出した。
① 工場の稼働能力維持のために、備蓄原油の緊急供給を行い、価格規制を柔軟に調節すること。
② 補充のための輸入計画を策定し、様々なシナリオに応じて供給源と輸送ルートを多様化すること。
③ ベトナム国家銀行(中央銀行)に対し、輸入燃料の需要増に対応する外貨準備策を策定することを要請。
④ 税制政策に関しては、コンデンセート、ナフサといった生産原料に対する輸入税を0%まで引き下げを検討すること。
⑤ 政府と外務省に対し、日本と韓国の原油備蓄を動員・調達できるように、パートナー国に働きかけること。
⑥ 政府に対し、緊急事態における対応能力を強化し、タイムリーな供給を確保するために、グループおよびその傘下企業に原油および原材料の輸入許可枠の付与を検討すること。
⑦ 規制当局に対し、エネルギー政策を新たな状況に合わせるために、現行規制(特に、ベトナム市場における石油事業及びその条件を規定している政令第83/2014/ND-CP号)を包括的に見直すこと。
⑧ 国内の石油・ガス探査・生産活動を高く維持するよう努めること。
⑨ 緊急事態において、ベトナム市場での請負業者(石油保有者)に保有する原油をPVNに売却することを要請する決定の権限を委ねること。
⑩ バイオエタノール10%混合のE10ガソリンを生産、普及促進するメカニズムを早期に充実すること。
中東紛争に対するベトナムの対応

石油・ガス探査活動 (出所)PVNウェブサイト


 PVGasは生産活動および日常生活に必要な液化天然ガス(LNG)と液化石油ガス(LPG)の供給を確保するため、以下の一連の戦略的ソリューションを積極的に実施している。
① 2026年上半期にLNGタンカー3隻分を輸入する計画において、カタールと東南アジアから2隻分のタンカー(合計約15万トン貯蔵)を手配することに成功した。紛争勃発前の早期調達戦略により、同社は現在の市場価格より最大50%低い価格を確保した。現在、第3隻目の輸送についてサプライヤーを選定中である。
② 国内のガス処理プラントでのLPG生産量を増加させ、国内LPG生産量の5%を追加供給することが期待されていること。
③ 国内市場の需要を優先するために、輸出入のバランスを柔軟に保ちながら中東以外の LPG 輸入先の多様化を進めていくこと。
中東紛争に対するベトナムの対応

ペトロガスLNGタンカー (出所)PVNウェブサイト

 ベトナムの石油生産量の70%~80%は国内の2つの製油所(ニソン製油所とズンクアット製油所)で生産され、残りはシンガポールや韓国などから輸入されている。これらの石油精製所も様々な対策を展開している。
 ベトナム国営のエネルギー産業グループであるPVN傘下のビンソン製油・石油化学(BSR)のグエン・ヴィエット・タン社長は、ズンクアット製油所において現在、原料となる原油の約30~35%を輸入しており、その主な取引先は西アフリカ、地中海地域、米国、そして一部は中東にあると述べた。このため、中東紛争が継続した場合、原油価格、サーチャージ、輸送費、保険料は引き続き急騰し、投入コストと財務リスクが大幅に増加する可能性があるとのことである。BSRでは、2026年初頭から、ベトナム経済の2桁成長への備え、そして不測の事態や気候変動の影響への対応策として、在庫量を積極的に引き上げ、市場需要に応じた柔軟な生産管理を行い、原材料調達先の多様化などを進めてきた。 BSRは、商工省およびペトロベトナムの指示を受け、安定供給を確保し、ベトナムと米国間の貿易赤字の削減の一環として、米国の大手エネルギー企業2社、エクソンモービルおよびシェブロンとの間で原油供給契約を締結した。2026年3~5月期にナイジェリアのイボエ原油、リビアのブー・アティフェル原油など様々なルートを通じて約300万バレルの輸入原油を購入する契約を締結している。5~6月までの生産事業に必要な原油供給を確保すべく、暫定的な解決策としては国内ルビーやブンガ・オルキッド(BO)、チムサオの各鉱区から直近の最高入札価格での購入・引渡しを受ける許可を申請した。
中東紛争に対するベトナムの対応

ズンクアット精製所  (出所)PVNウェブサイト

3. 輸出入活動・ロジスティックス活動
 ベトナム水産物輸出加工業者協会(VASEP)とベトナム繊維衣料協会(VITAS)などによれば、中東は大きな市場ではないものの、国内企業に対し以下の勧告が発せられている。
① 国際輸送ルートの変動は依然として物流コストの上昇につながる可能性があるため、輸送ルートの多様化が必要。
② 地域の冷蔵施設の在庫を増やし、スポット市場への依存ではなく長期輸送契約を優先する必要がある。
③ 海上保険や海運会社の方針の動向を注意深く監視し、輸入業者と連絡を取り合い、必要に応じて配送時期や方法を柔軟に調整する必要がある。
 ベトナム政府は、関係者からの勧告や提案をすべて総括した後、2026年3月6日付の決議第36/NQ-CP号を公布し、中東で進行中の紛争に対処するためのいくつかの緊急対策の実施を指示した。この決議の主な内容は以下の通りである。
① 政府は、石油法に基づき、国内で保有する原油・コンデンセート(輸出契約が未締結のもの)を、国内製油所へ優先的に売却することを義務付けた。
② 財務大臣に「PVNに対して具体的な事項について決定するよう指示し、柔軟性、効率性、および石油関連法の遵守を確保する」権限を委ねた。
③ PVNとその傘下企業(ビンソン製油・石油化学、ベトナム石油公社)に原油・石油生産原料の売買・輸出入を許可すること。
④ 商工省と財務省に国家管理の責任を委任し、危機の間、PVNをはじめとする企業を指導する権限を付与すること。
⑤ 商工省に対して、発電事業者(ベトナム電力グループ、PVN、および関連企業)が使用するガスは国産ガスを最大限に優先するという原則に合意したうえで、ガス源を輸入やLNGに転換するためのメカニズムを、財務省と連携して構築するよう指示した。
⑥ 現行、ガソリン・軽油価格の管理体制が政令第80/2023/ND-CP第1条第11項の規定に従っているが、新体制下では、市場で一般的に消費されているガソリンおよび軽油製品のいずれかの基準価格が、直前の価格調整期間に発表された基準価格と比較して7%以上上昇する場合、新基準価格の発表は商工省が財務省と連携したうえで、基準価格が上昇した翌日に実施すること。
⑦ 財務省および関係機関に対し、2023年5月31日付の政府法令第26/2023/ND-CP号(輸出関税表、特恵輸入関税表、物品リストおよび絶対税率、混合税、関税割当枠外の輸入税に関するもの)に基づいて発行された特恵輸入関税表における特定の石油製品に対する最恵国(MFN)輸入税率を改正する法令を緊急に起草し、2026年3月7日までに政府に提出するよう要請した。
⑧ 商工省と科学技術省に対し、バイオ燃料に関する基準や規制、バイオ燃料移行ロードマップの早期実施の条件について調査・検討するよう要請した。

 中東事態の予測は困難なものの、ベトナムでは政府による国外(主要産油国との協議)および国内向けのタイムリーな対応策で持続的な高成長を遂げることが期待される。

以上

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