キャピタル アセットマネジメント株式会社

フィリピンの製造業:外国からの誘致を推進中

情報提供資料

2024年5月28日

フィリピンの主要産業といえばサービス業、とりわけビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)が経済成長をけん引してきた。英語を話せる人材が多く、賃金も比較的安価であることから、コールセンター業務を中心とした顧客サービスの需要を取り込んできた。国内総生産(GDP)の概ね9%弱に相当するフィリピン人海外出稼ぎ労働者(OFW)からの送金額が国内消費の支えになっていることも同国の特徴である。エレクトロニクス産業が代表的ではあるものの、製造業がGDPに占める割合は2023年実績で16.22%まで低下しており、その存在感は低めであった(左下グラフ)。外国からの直接投資(FDI)、とくに製造業関連の流入が歴史的に少なく(政治への不安などが背景といわれる)、ASEAN主要国に比べると設備投資や雇用で後れをとってきた。
ところが、2022年のマルコス大統領就任後の積極策により、フィリピンにおけるFDI認可額は急上昇に転じている。フィリピン投資委員会(BOI)では、電気自動車(EV)、再生可能エネルギー、スマート製造・農業、半導体、データセンターなどを優先分野として投資誘致を強化していく方針であるという(出所: NNA報道)。そして、同国の大手財閥であるアボイティス・グループは、4か所目となる工業団地をルソン島の中部にて建設し、空港や港湾への良好なアクセスと税制優遇を強みに外国からの製造業の誘致を目指す。当該工業団地の敷地面積は約200ヘクタールで、工業区域は約160ヘクタール。国際空港からは車でおよそ35分の立地にあるという。いまフィリピンでは、製造業が経済成長のけん引役に躍り出てくる段階にあるのかもしれない。
フィリピンの製造業:外国からの誘致を推進中
経済における各業界の重要性は、各々の業界が生み出す付加価値がGDPの割合としてどれだけを占めるか、によって測定される。付加価値とは各セクターや事業体が新たに生み出した価値のことで、その国内での合計額がGDPとして算出されるからである。2015年以降のデータを分析すると、フィリピンにおける製造業が占める付加価値の比率は2023年まで下降トレンドが見受けられ、製造業が経済に占める重要性は低下してきた。
フィリピン統計庁(PSA)によれば、2023年のフィリピンの実質GDPの成長率は5.6%となり、中国(5.2%)、ベトナム(5.05%)、マレーシア(3.7%)などの東南アジアの主要国を上回った。製造業を含む16の産業すべてが成長した。高い成長率を示した業種は宿泊・飲食サービス業が前年比+23.4%、その他のサービス(芸術、文化、レクリエーション活動、個人サービスなど)も同+20.9%、運輸・倉庫も同+13.1%であった。その中でも、製造業は+1.3%と緩やかな成長率であった。
フィリピンの製造業:外国からの誘致を推進中

出所:フィリピン統計庁(PSA)

製造業の活動に関してPSAによれば、2024年3月の総製造指数(VaPI)は前年同月比-1.7%、製造量指数(VoPI)は同-0.8%と、それぞれ減少した。2月のVaPIは同+5.7%であった。PSAでは、3月のVaPIが減少した要因を、食品製造の減少によるものとしている。同部門のVaPIは、2月の同+1.6%から3月には同-7.2%となった。食品製造は、3月のVaPI下落要因の22.6%を占めていたとのことである。
さらに、PSAによると、3月のVoPIの下落は、主に食品製造、コンピューター・電子・光学製品、コークス・石油精製品というトップ3の産業部門によるものであったという。
フィリピンの製造業:外国からの誘致を推進中

出所:フィリピン統計庁(PSA)、フィリピン中央銀行(BSP)

フィリピン製造業は伸び悩みの様相を呈しているが、明るい兆しもある。PSAの2021年フィリピン商工業年次調査(ASPBI、2023年10月開示)によると、合計25,279の事業所が製造業に従事していることが判明した。これは、2020年の22,083事業所から14.5%の増加に相当した。業種ごとでは、その他の食品製造業が合計7,656事業所と全体の約3割(全体に占める比率30.3%)を占めた。これに、飲料品製造の4,091事業所(同16.2%)、印刷・印刷関連サービス業の2,311事業所(同9.1%)、製粉・デンプン製品の製造業の1,395事業所(同5.5%)などが続いた。
フィリピンの製造業:外国からの誘致を推進中

出所:フィリピン統計庁(PSA)、フィリピン中央銀行(BSP)

製造業購買担当者景気指数(PMI)は購買担当者へのアンケート調査に基づき指数化した、景気を表す指標の1つである。50を景況感の分岐点とし、50を上回るスコアは改善を示し、50を下回るスコアは悪化を意味する。2024年4月のPMIは、前月の控えめな50.2から52.2へと上昇した。
S&P Global Market Intelligenceのエコノミスト、Maryam Baluch氏は、「第1四半期の成長に基づき、フィリピンの製造業は4月にさらに成長を示した。新規受注の拡大速度が速まり、それに伴い生産が新たに堅調に増加した。さらに、海外市場からのビジネスもより強い成長率を示した。加えて、4月のインフレ圧力は抑制されており、メーカーがより競争力のある価格で生産品を提供できるため、今後数か月の成長を支えると期待されている」とコメントした。
フィリピンの投資委員会(BOI)は、2025年までに以下の目標を達成することを目指していると宣言している。(1)製造業と農業およびサービス産業と結び付け、連携・統合すること(2)製造業の革新的なエコシステムを構築すること、および(3)技術を国際的に競争力があって、かつ革新的な水準に向上させること。これらの目標を達成するための政府の戦略の1つは、新技術をもたらす適格な製造業者にインセンティブを提供することによって、新たな技術をもたらすFDIを引き付けることである。
フィリピンの製造業:外国からの誘致を推進中

出所:フィリピン統計庁(PSA)、フィリピン中央銀行(BSP)

2023年第4四半期のFDI認可額は、3,944.5億フィリピンペソ(以下ペソ)、米ドル換算で約70億米ドルとなり、前年同期の1,736.1億ペソから2.27倍へと急増した。
電力、ガス、蒸気、および空調供給業界の認可額が合計FDI認可額の85.1%に相当する3,358.7億ペソと最大であった。これに続いたのは製造業(認可額489.6億ペソ)、および管理・支援サービス業(57億ペソ)であった。
国内・外国投資認可額の合計は5,851.5億ペソ(約104億米ドル)に達し、前年同期の4,845.3億ペソから20.8%増加した。国内投資認可額は1,906.9億ペソで、全体の認可額に占める構成比は32.6%であった。
フィリピン政府は、多様な外国人投資家からの製造業への投資増を確保することを目指している。同国の投資促進機関(IPA)では投資拠点としてのフィリピンの競争力を宣伝しており、これにより同国がより多くの外国からの投資を引きつけ、製造業を中心とした同国の産業の拡大を促進することが期待されている。
コリアーズ(66か国で投資管理サービスを提供している米国ナスダック上場企業グループ)のレポートによると、ルソン島中部のカビテ・ラグーナ・バタンガス(カラバ)地域には、リマ工業団地の拡張やバタンガスの軽工業科学パーク 3の拡張などにより、約70ヘクタールの新しい工業スペースが整備されている。
2024~2026年の期間に、コリアーズではカラバとルソン島中部において新しい工業用地の年間平均供給が120ヘクタールになると予想している。完成が見込まれる工業団地には、バタンガス・テクノパーク、カビテ・テクノパークなどの拡張が含まれる。なお、拡張を発表した製造業者の中には、ラグナテクノパークに既存のサイトを有するTDKグループやテルモが含まれている。
同国の大手財閥であるアボイティス・グループが、約160ヘクタールの工業区域を擁する新たな工業団地をルソン島の中部に建設し、同グループが手掛ける電力等のインフラを提供、経済特区の適用で税制の優遇措置が得られることも武器に製造業の誘致を推進する方針である。
コリアーズではさらに、フィリピンが米国のCHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors)および科学法の恩恵を受ける可能性が高いと予想している。このプログラムは、米国の研究と半導体製造を促進することを目的としている。現在米国で事業展開している半導体メーカーは、フィリピンを拡大計画の対象として考えているとのことである。これらの企業には、バタンガス州のファーストフィリピン工業団地(FPIP)に新工場を建設する村田製作所や、10億米ドルの追加投資を実施したテキサス・インスツルメンツなどが含まれる。そして、2023年11月の米国訪問中にマルコス大統領が2.5億米ドル相当の半導体分野における投資の誓約を受領したことで、フィリピンが半導体製造の中心地としての競争力がさらに高まる見通しである。
加えて、フィリピンの貿易産業省(DTI)では、労働者のスキル向上、デジタル化への投資、および投資グリーンレーンの確立を通じて、製造業の競争力向上を図っている。

以上

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