情報通信技術(ICT)産業はベトナムでの急成長産業の1つである。先進国企業からの開発受託など世界的な市場拡大に伴い、ベトナムの情報技術(IT)人材への需要が高まっている。そこで不足する技術者を補うべく育成し、供給していく仕組みがベトナムに整っていることが、ICT産業の成長を支えているといえよう。
ベトナム情報通信省(MIC)によれば2023年のICT産業総売上高は約1,420億米ドルに達した。米ドル換算で2016年実績の約2.3倍に相当する。2024年第1四半期の同売上高は前年同期比17.7%増の363億ドル近くに達し、成長が再加速している。ベトナムはカーニー(米国のコンサルティング会社)の2023年グローバルサービスロケーション指数で7位にランクされており、ソフトウェア・ITサービスを輸出する世界的なデジタルハブと位置付けられている。
出所:TopDev(ベトナムの人材採用プラットフォーム)のレポート、情報通信省データに基づきキャピタル アセットマネジメントが作成
GDP成長率は物価上昇分を調整した実質成長率である一方、ICT伸長率は物価上昇分も含む現地通貨ベースの成長率である。
右側のグラフでは米ドル換算値の推移を示した。現地通貨による伸長率を示した左側のグラフとは伸長率が異なっている。
TopDevのIT市場レポートによれば、2023年に技術・デジタル分野で働いているベトナム人労働者数は約53万人である。労働力は大きくなってきたが、同国の旺盛なIT人材の需要を満たすには至っていない。2025年には約20万人のソフトウェアプログラマー・ITエンジニアが不足することが予測されている。
IT産業における人材育成はデジタル化戦略における最重点分野となっている。現在、ベトナムにはITおよび関連分野を教える大学が少なくとも108校ある。そこにはハノイ市の大学30校、ホーチミン市の19校、ダナン市の4校が含まれる。そして、IT分野における一般的な副専攻はコンピューター・情報科学、ソフトウェアエンジニアリング、データ科学、サイバーセキュリティである。さらに、多くの短期大学、トレーニングセンター、コースでIT分野の知識とスキルを教えている。子ども向けのプログラミング講座も開催されている。
FPT大学やCMC大学などの大規模なIT専門大学は年間平均9,000~10,000人の学生が入学し、IT専攻がある大学では年間300~500人程度の学生を受け入れている。毎年卒業するIT分野の学生数は6~7万人程度となる。しかし、雇用主の要件を満たす新卒者はわずか35%程度で、残りの学生が要件を満たすには3~6か月のトレーニングなどが必要といわれている。
2017年以降、多くの大学が国際スクールや団体と協力してプログラマー・ITエンジニアの育成を行っている。FPT大学、ハノイ工科大学などではITカリキュラムに日本式の要素を取り入れた学部も開設されている。
半導体チップ産業の人材育成も推進されている。ベトナムマイクロチップコミュニティによると、同国には5,500人を超えるチップ設計エンジニアがいる。ベトナムの半導体産業におけるエンジニアへの需要は年間5,000~10,000人程度であるが、要件を満たすスキルを備えた人材はその20%以下であるという。半導体産業における人材スキルの向上を目的として、ベトナムでは下記のように多くの国際連携がなされている。
出所:各機関のリリースおよび報道に基づきキャピタル アセットマネジメントが作成